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 弓を持つことができるようになったら、いよいよ弓を使って音を出してみます。
ところがこの弓で音を出す行為、これもまた単純な動作でありながら色々な点に注意が必要となります。下記を参考にしつつ、まずは1つずつでいいので、無意識にできることを増やしていきましょう。


 最初に基本姿勢を覚えます。楽器を持ちながら弓を構えてみましょう。楽器本体の構えは当該ページを参照してください。とりあえず今弓を乗せる弦は、D線(自分から見て左から2本目、第2弦)が比較的構えやすくて良いと思いますので、そこに弓の根元部分を乗せてみましょう。右腕はだら~んと下げてください。肘を意識的に真っ直ぐピンと伸ばす必要はありません。力が抜けていればそれでOKです。

画像A
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画像B
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このとき、弓の角度は画像Aのように弦に対してほぼ直角の関係になるよう気をつけます。なぜなら弦は横方向の振動によって音を出すため、縦に擦るような弾き方をすると自ら振動を邪魔することになり、音が裏返ったりして綺麗な発音の妨げとなります。画像Bのように弓先が下がった状態にならないよう注意しましょう。
また、弓の角度を直角の状態に支えるのに中指が重要な役割を果たします。弓の持ち方の項で中指はアーチを描くような形で、指先に竿の部分を乗せるよう書きました。これなら弓の角度は自ずと直角に保たれます。手首だけで弓を持ち上げて弾くのは好ましくありません。なぜなら本来自由なはずの手首の関節が固まって使えなくなってしまうからです。さらに人差し指や中指も伸びきる形になってしまいこちらも同様に使えなくなるので、手首が思い切り曲がってしまうのは避けましょう。

基本姿勢ができたら、改めて弦の上に弓を乗せる練習をします。弦を振動させるにはまず弦に対して「重さ」をかけなければいけないのですが、このときかける「重さ」とは右腕の筋肉を使って押さえつけることではありません。右腕の、ひいては上半身の体重を右手と弓の接点にかけ、さらにそれを弓の毛と弦の接点に伝達することで得られるものです。

画像C
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文章にすると回りくどいので、直感的にその感覚を知っていただくため、画像Cのように弓を持たない状態で弦の上に右手を置いてみてください。そして右腕の筋肉を使わず、指板に体重をかけもたれかかるようなイメージで、弦を押さえてみましょう。実際にはこの右手と弦の間に弓が入ることになりますが、体重を伝達するイメージはこのとき得られた感覚に近いはずです。

画像D(ダウンボウの重心)
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今度は弓を持って同じことをやってみます。まずはダウンボウから。弓の根元を弦上に乗せ、指と竿の接点・・・ここでは親指の腹のあたりに腕の重さをかけます。その重さをさらに毛と弦の接点へと伝えましょう。勿論腕の筋肉は硬直させないように。重さが乗ったら、弓を横方向に動かします。単純に横へ弾くだけなので、ここでも脱力を忘れずに。根元からスタートして、弓先ギリギリまで目一杯使ってあげましょう。

画像E(アップボウの重心)
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弓の先まで到達したらそのままの状態で一旦ストップ。今度は弓先から弓元へ帰るわけですが、ここで現在親指の方に乗っている重さを人差し指と竿の接点へ移動させてください。ダウンボウでは親指、アップボウでは人差し指へ重さをかけてボウイングを行うからです。人差し指に重さが移動したのを確認してから、弓を根元の方へ向かって動かしていきます。根元に着いたら、また一旦止まって重さを親指へ移す。最初のうちはこの重心移動を意識しながら、一動作ずつ丁寧に繰り返し練習をしてください。慣れてきたら止まっている時間を少しずつ短くしていって、最終的にはダウンとアップが繋がるようにしましょう。
ダウンとアップの動作が繋がったら、次は指先の重さ移動のタイミングを少しずらします。ダウンとアップは正反対方向への動きであり、例えば右方向へ動いているものを急に左に方向転換すると、ここまでで書いたやり方だけでは返す瞬間の反動で音の出だしがきつくなってしまいます。それを防ぐために、重さの移動を弓が返る直前から行います。ダウンボウで親指に乗っている重さを、弓先付近に来たら徐々に人差し指の方へ移動させて行き、アップボウに変わった時点で完全に人差し指へ重さが移ります。逆にアップボウて人差し指に乗っている重さを、弓の根元付近に来たら徐々に親指の方へ移動させて行き、ダウンボウに変わった時点で完全に親指の方へ重さが移る…といった具合です。

他にもボウイングの時、気をつけないといけないことが沢山あります。しかし全ての事をいっぺんに習得するのは至難の技。1つの注意点に集中してそれをある程度無意識に出来るようになったら、次のステップを始めましょう。


◆同じ高さを弾く
 弓の先が下がらないようにと前述しましたが、これも意味するところは似ています。弓弾きのとき腕は肩を支点に動いているため、真横に動かしているつもりでも弓の軌道が上下してしまっていることがあります。この場合も弦の横振動を縦こすりによって邪魔することになるため、直接視認するか或いは鏡などで弓が同じ高さを移動できているか確認しましょう。また直接見て確認するときの注意点として、目線を下に落とすことで姿勢が前傾して背中が丸まってしまい、肩の可動域が狭くなってしまうことがあるので、あくまで目線を向けるだけにして姿勢は自然を保ってください。


◆腕全体を使って弾く
画像F
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 腕全体、というのは肩から指先まで…だけではなく、腕と胴体を繋いでいる鎖骨から指先までのことを指します。肩関節が固まった状態で腕先のみを使って弾くのではなく、指・手首・肘・肩・鎖骨と多くの関節をいかに使うかで音色をコントロールすることが可能になります。ロングトーンで練習するときは大きく柔らかな動きを意識してみましょう。ダウンボウのときは肩甲骨が背骨側に寄っていくように、アップボウのときは鎖骨が少し浮き出てくるようなイメージで・・・表現が適切に伝わるかどうか不安ですが、とにかく骨の動きを意識して頂くと良いと思います。


◆手の中のクッションを使う
画像G
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画像H
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 腕全体を使って弾くという項目で幾つもの関節を使ってボウイングするということを書きましたが、その中で最小かつ基本的な動きが手の中のクッションです。基本的ですがなかなか難しい技術ですので、この練習に関してはまずは楽器を弾きながらではなく、弓だけを持った状態で行いましょう。具体的には、画像Gの状態と画像Hの状態を交互に、ゆっくりと(カクカク動かないように)指を少し伸ばしたり曲げたりして変化させます。あまり変わっていないように見えますが、掌と毛箱の間にある空間が画像Gでは広く、画像Hではくっついて狭くなっているのがわかると思います。指を使って弓を押し出したり、逆に掌へひきつけたりという動作を、一動作ずつゆっくりと行いましょう。この時の注意点として、指に無駄な力が入らないようにするのは勿論ですが、指の場所が定位置から動かないようにしてください。弓を引きつけるときに下記画像Iのように中指の関節が反っててしまったり、押し出すときに下記画像Jのように親指が上がってしまったりといったことが非常に起きやすいです。また弓先が上下にぶれてしまうのもいけません。弓先は前後に少し動く程度にしましょう。これらを守れないと弓の軌道が安定せずに音が乱れてしまうので、十分に注意をはらいましょう。

画像I
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画像J
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弓だけで安定した動きができるようになったら、楽器をつけてロングトーンで練習しましょう。クッションは下記画像Kのようにダウンボウのときは掌の空間が空いた状態、アップボウのときは下記画像Lのように掌と毛箱がくっついた状態になります。状態を切り替えるタイミングですが、上記で親指と人差指にかかっている重さは返す直前から移動し始める、ということを書きました。それと同じように、クッションもダウンボウで弓先に到達する直前から手の中の空間が閉じてゆきアップに切り替わると同時に画像Lの状態に。そしてアップボウで根本に到達する直前から手の中の空間が開いてゆきダウンに切り替わると同時に画像Kの状態に・・・これが連続して行われます。弓を返すので基本的に音は切れてしまうのですが、クッションで返すときの衝撃をなるべく緩和し、まるでずっと1本の音として繋がっているかのようなイメージで弾いてみましょう。

画像K
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画像L
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ここまでの記述で習得できるのは、ほんの基本動作です。どのような音を出したいかによって右手の技術は無限とも言える拡がりがあり、終わりはありません。色々な基礎練習や楽曲を通して引き出しを増やしていくことが大事ですので、その都度丁寧に練習してできることを増やしていきましょう。