これからシマンドルの教則本を使った練習に入っていきます。第Ⅰ部では、8ページの最も低いハーフ・ポジションから始まり44ページのポジションⅦまで、各ポジションを一つづつ学習していきます。そして各ポジションの練習において、大まかにいくつかの目的・グループに分けることが出来ます。

アルファベットのふってある練習(a.~h.)
●該当ポジションの感覚を身につける。
●該当ポジションの各弦でとれる音を、指と関連付けて覚える。

数字のふってある練習(1.~)
●該当ポジションと今までに学習した先行ポジションを駆使した練習曲。
●別の弦やポジションへ移動するときの感覚や距離感を覚える。
●自然なフレージングや、それを実現するためのシフティング(指使い)を考える。


音階
●調合(ヘ音記号の右に表記されている♭や♯)を、調名と関連させて覚える。
●音階練習の後に出てくる同じ調の練習曲は、調合やどの音が主音なのかなど意識した上で練習する。
●音階は全て全音符で書かれているが、目的により自分で音符の長さやリズムなどを変えて、課題を持って取り組むとなお良い。


このページでは一番上のアルファベットのふってある練習について、どうやって取り組んでゆけばいいのか説明していきます。


1.目的

 先述の通り、ここでは該当ポジションの感覚を身につけること、該当ポジションの各弦でとれる音を指と関連付けて覚えることが主な目的となります。例えば曲中に出てくる”ある音”について、「○線、ポジション○の第○指」
という風にどこでその音が取れるのか瞬時に把握できるようになることはとても重要で、効率のいいシフティングを実現するには欠かせない要素です。


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画像A-1

画像A-1は、ハーフ・ポジションa.~d.の譜面。ここに記載されている音は全て、ハーフ・ポジション内でとることができ、指番号の順番に並んでいます。他のポジション練習でも同様の譜面が書かれており、a.~d.の部分は該当ポジションでとることの出来る音を、弦ごとに学習できるようになっています。


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画像A-2

画像A-2は、ハーフ・ポジションe.~h.の譜面。これも弦ごとの練習ですが、a.~d.と違い音がバラバラに並んでいます。a.~d.でしっかり音と指を関連させて覚えていれば、どんな音が出てきてもちゃんと対応できるようになっているはずなので、少しややこしいかもしれませんが、指番号を書き加えたりせずに練習しましょう。



 このアルファベットのふられた部分を練習することによって、どのような能力が身につくのでしょうか。
例えば次の画像Bのような、下のミから1オクターブ上のミまでのジャンプする譜面があったとします。

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画像B

1つ目のミを「D線、ハーフ・ポジションの第2指」でとったとしましょう(画像C)。2つ目のミは「G線、ポジションⅣの第4指」になります。見ていただければ分かる通り、非常に長い距離を移動しなければいけません。テンポが早い場合は移動を素早くしないと間に合いませんし、長距離を飛ぶため音程にも不安があります。
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画像C


では1つ目のミを、「D線、ポジションⅠの第1指」でとればどうでしょうか(画像D)。押さえる場所は同じですが、目的地のポジションⅣまでは先ほどとったハーフ・ポジションより、半音だけ距離が近くなっています。ハーフ・ポジションから飛んだ時に比べれば幾分楽だとは思いますが、やはり正確にとるのはなかなか難しいでしょう。
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画像D

少々回りくどくなってしまいましたが、実は全く違う場所に1つ目のミをとれる場所があります。それは「A線、ポジションⅣの第1指」(画像E)。目的地であるポジションⅣのミと同一のポジションなので、弦を一本またぎますが簡単にオクターブをとることが出来ます。更に移動がないので音程をとることも容易。(因みに「A線、ポジションⅢの第4指」「A線、ポジションⅢとⅣの間の中間ポジションの第2指」でも1つ目のミは取れますが、いずれも先述の「A線、ポジションⅣの第1指」に比べると効率で劣ります。)
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画像E

ここで重要なのは、「A線、ポジションⅣの第1指」に1つ目のミの音があるということを知っていないと、画像Eのようなポジションのとりかたは思いつきもしないということです。ポジションⅣa.~h.をしっかり学習しポジション内でとれる音を全て把握していれば、このように効率的なシフティングのアイデアを思いつくこともできますし、他の場面でも様々な応用を利かせることができるのです。どこにどの音があるのか、指板上に散らばる音を弦・ポジション・指番号全てと関連付けて覚えましょう。

(※ただし、今はあまり気にする必要はありませんが、音色や前後の音の流れによって、必ずしも最も近い移動をするシフティングが最適解とは限らないということを覚えておいてください。)


2.具体的な練習方法

◆基本的なシフティング
 ここで学習するシフティングはこの章のみならず、今後の練習でずっと使っていくとりかたです。音程を正確にとれるようになるため必要不可欠な方法ですので、丁寧に練習し習得しましょう。それではハーフ・ポジションのa.を例に、実際の練習の流れに沿って説明していきます。

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画像F

 画像Fはハーフ・ポジションのa.です。ここでは、G線のハーフ・ポジションでとれる音が音名、指番号とともに書かれています。ではまず左手を、G線のハーフ・ポジションの位置まで移動しましょう。前の章で学習したように、上駒に人差し指を合わせ左手の形を作り(画像G)、そのまま形を崩さず左手を半音下方向へスライドさせます(画像H)。これでG線のハーフ・ポジションをとることが出来ました。この「目的のポジションまで移動する」動作は、面倒でも必ず毎回行ってください。ここで正確にポジションがとれていないと以降の練習は意味が無いものになってしまいます。絶対に省略しないよう徹底してください。

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 準備が完了したらいよいよ実際に音を出していきます。もう一度画像Fの最初の音をご覧ください。音名はソ、指番号は0。指番号0というのは、弦を指で押さえずに弾くことを示しています(開放弦)。

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ですから画像Iのように指を全部弦から離して・・・はいけません!ここは非常に重要なポイントです。確かに開放弦を引くときは弦を指で押さえず弾くのですが、画像Iのように指を完全に上げてしまったら、せっかく上駒から測ったハーフ・ポジションの位置や指の形が崩れてしまい、いざ弦を押さえる段階になった時に指をどこに戻したらいいかわからなくなってしまったり、押さえる位置が微妙にずれてしまって音程を外してしまったりということが起こります。では開放弦を弾く時、指はどこに置くべきなのでしょうか?

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画像J
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画像K(下から見た図)

 答えは隣の弦の上、今回のようにG線の開放弦を弾く場合はD線の上です(画像J)。左手の形はそのままに、指を真横に移動させる形で退避させます(勿論押さえる必要はありません)。指を移動させる際には、ちゃんと真横に移動できているかどうか、感覚に頼らず必ず目で確認して下さい。このとき、G線の上を指がまたぐようにしましょう(画像K)。指の腹がG線に触れてしまうと開放弦の音がでないため、アーチを描くように弦をまたいでください。こうすれば、ポジションの位置をずらすことなく開放弦を弾くことが可能です。その状態でソの音を出してみましょう。

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それでは次の音に移ります(初めのうちは、音をひとつ鳴らすたびに止まって頂いて構いません。今は正確なシフティングに指を慣らすことに集中し、慣れてきたら徐々に音と音の間を狭めていきましょう)。次の音はソ♯、指番号は1なので、人差し指でG線を押さえます。先ほどは隣のD線上にすべての指を移動させました。今度は音を出すのに必要な指”だけ”をG線に移動させて押さえます(画像L)。画像をご覧頂ければ分かる通り、人差し指だけG線に移動し、他の指は先程までと同じようにD線上に残っています。このように左手の形を崩さず、必要な指だけ該当の弦に移動させるようにすれば、(少し極端な言い方ですが)音程を外すことはありません。

IMG_1312画像MIMG_1313画像N

以降の音も同様です。次のラを弾く場合は人差指と中指がG線に移り(画像M)、次のラ♯を弾くときはすべての指がG線に移ります(画像N)。この移動に関しても、正確に真横に移動できているかどうかは必ず目で確認して下さい

※E線で練習する場合(d.)のシフティング
 G・D・A線と違い、E線の右側には弦がありません。よって、まず左側のA線上に指を置き、必要な指をE線上に移動させるようにしまよう(画像O-1~4)。
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すべての弦で指の移動を正確に行いつつ音を出し、隙間なく演奏できるようになったら次の段階へ移りましょう。

※「目で指の移動を確認する」ことに関しての注意点
 指に注目するあまり身体が完全に楽器の方へ向いてしまい、姿勢が悪くなってしまうことがあります
(画像P-1)。身体は楽器の向きとほぼ同じ方向へ正面を開き、左手を確認するときは首か目線だけを動かして注視するとよいでしょう(画像P-2)

IMG_1314画像P-1IMG_1315画像P-2


◆指と音の関連付け

 何度も練習を重ねれば、目で確認しなくてもある程度正確に指を移動できるようになってきます。では次は目線を楽譜の方に持って行きましょう。指を先ほどのように順番に移動させながら音を出し、今演奏している音が何なのかを目で確認して下さい。ただ楽譜に食らいついてしまうのではなく、たまに左手に目を移してみたり、自分の姿勢が悪くなっていないか気を回してみるくらいの余裕は持っておきましょう。その上でひとつひとつ丁寧に練習してください。
このときの注意点として、必ず表記してある階名で楽譜を読んでください。稀に、書いてあるものとは違う階名で音を読んでしまう方がいらっしゃいます。ラ♯をシ♭と読んだり、ミ♯をファと読んだり・・・出現頻度が少なかったり、ピアノの鍵盤で言うと間に黒鍵がない部分での調号・臨時記号のついた音を、自分が読みやすいように勝手に読み替えてしまうケースです。詳しい説明は長くなってしまうので割愛しますが、例えばミ♯とファはでている音は同じでも、音楽的には全く違う意味を持った音になります。勝手な読み替えは必ず今後の練習に支障をきたすことになるので、絶対にやめてください。

左手の正確なシフティング、該当ポジションの各弦で演奏可能な音の把握。この2点ができたら次のe.~h.へ移りましょう。


◆e.~h.の練習

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画像Q

 画像Qは、ハーフ・ポジションのe.です。指番号が(0)→1→2→4(3)と順に変化していくa.~d.とは違い、音がバラバラに並んでいます。最初の方は指番号がふってありますが、その後は指番号が書いてありません。初めて弾くときは少々混乱するかもしれませんが、指番号は書き加えないようにしましょう。a.~d.で音と指をしっかり関連付けて覚えていれば大丈夫なはずです。指番号に頼りすぎると、楽譜を読む力が養われません。
ポイントは、現在弾いているところより少し先に意識を持って行くことです。表記してある音符は2分音符か全音符ばかりですし、この練習ではテンポも速く設定する必要はない(4分音符=60程度が良いと思います)ので、ある音を弾きながら次の音へ意識を向けることはそれほど難しくはないはずです。次の音をどの指でとるのか常に考えながら弾いてみましょう。ただし次の音のことを考えるあまり、今弾いている音が短くなったり、処理が甘くなったりしないよう注意はしてください。